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July 11, 2006

2つの引退劇

前回エントリに書いたシンポジウム@下北沢に来てくださったみなさま。
本当にどうもありがとうございました。

何とかみなさまにも楽しんでもらえる内容になったのではないかとほっと安堵しておりますが、各パネリストと司会者は何より多くのものを得させてもらいましたよ。
といっても一週間も前のことなので、筆の早いエンテツ師匠は、もう既に何度も報告記事を書いてくださっている。僕なりのまとめは、またもう少し違った形で、時間をおいて書くことでしょう。


とまれ、この一週間はやたらにビッグニュースが多かったわけだけど、日本海のドンパチにはまるで疎く、とりあえず中国とのパイプが全切れになってしまった副作用という以上の感想が浮かんでこないので、まあありきたりに、やっぱりかなり心を波立たせてくれた2つの引退劇について、簡単に触れておこうかと。

中田さんのほうは、正直あんまり書きたくないんです。
なぜって、この人のプレイに心躍らされたことはあるけど、ナカタという形象が特に好きだったってことがないものでね。悪口書くというスタイルは未だに慣れず、消耗してしまうほうなので。(といってもclosedなSNSにはちょこっと吐き出しましたが)

ただ、せっかくこんな記事を見つけたので、貼っておく。

偉愚庵亭憮録:限りなく透明に近いサムライ・ブルー

このW杯が始まってから久々に見てみた小田嶋さんのコラムは、ちょっと横滑り感が強かったけど、この記事は、コメント欄でのやり取りまで含めて、なかなかいいところを突いているのではあるまいか。

「書きたくない」っていいながらも、それでも少しはこうやって吐き出したい気分になっちゃうのは、やっぱりナカタをめぐる言説空間が、僕ら世代(の特に男子)には、ここ10年間にわたってそれなりに大きなものだったから。ある意味、日本サッカーの歴史における中田英寿本人のプレイそのものよりも、ね。
サッカーにはあまり興味ないけれども、中田のことは好きだし、彼の言動を実によくフォローしてるファンっていうのが、結構いる。「日本のサッカーなんて見れないよ、代表にも興味ない」という人たちの中にも、「中田だけは別だけどね」という人が、これまた存外いる。ヨーロッパでの実績ということだけとっても、実はそれほど大きな格差のない小野や俊輔に関して、こういうことを言う人たちを見たことがないのと、とても対照的である。

で、そういう「コアなナカタファン」--中田のプレイが好き、というサッカーファンではなく--たちとは、あんまり気心や価値観が合ったという記憶がない。
なんというか、僕にとってナカタという人に対する人物評は、一種の安易なリトマス試験紙のように使えることがある。それはおそらく、「自己実現」とか「リスクテイク」とか「チャレンジ」とか、そういった現代日本の価値観を二分する最重要な対立軸の一極を象徴する位置に、ナカタという言説空間があるからだろう。
「ホリエモン」みたいな人も若干それに近かった部分もあるが、この人の複雑な経歴から来る価値判断はより錯綜しているので、とりあえずはサッカー選手という職業に特化していたナカタのほうが、クリアカットなリトマス試験紙に近い印象がある。

そういう意味では、上のコメント欄の下のほうにある「田舎から出てきた人が、すごくムリして大都会の最先端に合わせようとしていがんばっている姿に感じるようないたいたしさ」をナカタに感じるというシンプルな評が、一番ずばっと問題の核心にラストパスを送っているのかもしれない。
確かに僕は、ひたすらに武士になることを目指して粉骨砕身した多摩生まれの近藤・土方の「熱さ」より、その近藤を理解しつつも結局はついていけずに袂を分かつ江戸育ちの永倉新八の「粋がり」のほうに、共感するタイプの人間だ。ちょっとわかりにくい例えかもしれないが、ナカタ-村上龍ラインの、一見クールを装った個人主義的な上昇志向に、とてもマッチョで息苦しいものを感じてしまうということだろう。川口能活のわかりやすい体育会的な「暑苦しさ」以上に。

一般的には「クール」と受け止められるのだがその実ものすごく「マッチョ」なナカタ-村上龍ラインの世界観に、明らかに関係なさそうな人たちが憧れるている状況はあまり健全なものだとは思わないし、個人的には彼らの世界観が覆いつくさない隙間を探して生きていけたら嬉しいなぁ、と思う今日この頃。

さきのナカタの痛々しさを指摘した慧眼のコメンテータは、このように続ける。
「そんなにムリしなくていいのになあ、と思うけれど、ムリするところがすでに身にしみついてキャラになっているのでしょうね。」
ナカタは、サッカーというのはステップで、あくなき人生のトータルな上昇過程の中での取っ掛かりと考えていると、若い頃から匂わせていた(だからこそ、イメージ・コントロールを強力にかけ、「産業」を通じて自分をできるだけ大きく見せることに執心してきた彼が、最後に「素のサッカー愛」を持ってきても、ちょっと白々しさを感じたわけだが)。 
で、彼個人に関しては、サッカーというステップに関して、現状で可能な最高の形で幕引きをして、次のキャリアへと向かっていく「成功者」であり、そこに外部の人間が感じるのは、ある種の「いたいたしさ」やら「滑稽さ」やらに過ぎないのだけど、凡百の「ナカタに憧れている若者たち」はどうだろうか? 身の丈にあわない自分探しを繰り返しては、果てない自己実現を目指し、「ムリすることをキャラ」にしてまでプライドを肥大させていく層がマッシブに現われているとしたら、「いたいたしさ」や「滑稽さ」では済まない。

そう考えると、今回の一件で一番泣けてくるニュースは、所属事務所が例の引退メールを許可申請があれば転載・使用可ということにしたら、全国の学校教員から、「道徳の授業に使いたい・・・」というような問い合わせが200件ぐらいあったんだという話か。
このワイドショー向けのコメント自体営業のような気もするが、マジだとするとちょっとやばいよ、何かが。


して、もひとつの世界的なスターのほう。
あまりに予定調和すぎるできすぎたストーリーを自ら壊したのだと、したり顔で呟くには衝撃的過ぎる。
FIFA最優秀選手を3度も取った名手が、引退を公言して勝ち進んだW杯の決勝で、言い訳の聞かない暴力行為を犯して退場するなどという事態は、今後サッカーの歴史が1000年続いたとしても二度と起こらないだろう。

しかも、見知った顔のDFと、さっきまで笑顔交じりで談笑していたのが、何かの一言をきっかけに、突然きびすを返して頭突きをするとなると、いろいろな憶測がしばらくの間飛び交うのは避けられまい。

ジダン頭突きめぐり各国で憶測報道

ジダンはもちろん、こうした憶測に今後一切否定も肯定もしないだろう。もし事後に何らかのリアクションを取るぐらいなら、レッドカードが出された時点でもっと派手な抗議を行っているはずだ。
が、当のジダンは、この愚行が招来する、今後の自分が巻き込まれる報道やら商品価値の低下やらまで含むすべてを飲み込んで、静かに目を伏せてピッチを後にしたように見えた。

確かに激高の前科がない選手ではなかったが、あの特別な場で、すべてのカタストロフを理解している彼をしてなお、踵を返さしめた一言があるとすれば、それはやはり家族に関することか、人種に関することか、いずれにせよ彼の出自に関連する何かであっただろうという憶測が乱れ飛ぶのは自然なことだ。

その真実が明らかになる日は決して来ないだろうが、こうしてレイシズムに関わることが、こんなマイナスな形で話題になってしまったということ自体、現在のフランスの、いやヨーロッパの暗澹たる情勢に止めを刺してしまうようないやな感じがする。

先日参加した移民学会のシンポジウムでも、98年のW杯制覇によって、フランスは人種を越えた社会統合の夢を束の間見られたというのは、単なる俗説というわけでもなかったですよ、とフランスの移民政策を追いかけてきた専門家にも強調されていた。
しかし、その束の間の夢も醒めて郊外団地の「停戦」も終わり、昨年末には最悪の状況に陥ったのはご存知の通り。そして、雇用促進法をめぐるこの春のデモも、雇用の安定性を訴える若者たちと、そもそもそのスキームにも乗れない失業中の移民の若者たちたちとの間にある溝を、際立たせるものでしかなかった。

こんな情勢下で、98年の夢をもう一度見れる寸前まで到達しながらのジダン「事件」。
その愚行を行ったのがいかな英雄といえども、「やっぱりアラブ系の人たちは、キレやすいんだわ」「ああいう非理性的な(uncivilized)人たちと一緒に暮らすのは難しいねぇ」などという差異主義的な人種主義(バリバール)を、フランス中のパブやお茶の間で再確認させてしまった可能性は、否定できないだろう。
もちろん、そうした反応の可能性なども十分わかった上で、それでもなお、頭突きせずにはいられない何かの言葉が、そのときピッチ上で発せられたのだろうが。

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